篠田節子「コンタクトゾーン」

コンタクトゾーン
お勧め度:A-

コンタクト・ゾーン 上 (文春文庫)

コンタクト・ゾーン 上 (文春文庫)

コンタクト・ゾーン(下) (文春文庫)

コンタクト・ゾーン(下) (文春文庫)

生真面目小説。篠田節子って、絶妙のコメディになりそうな設定をもってきても、どシリアスになってしまうとこがある。「斉藤さんちの核弾頭」なんて、横山えいじのカバーイラストで、こりゃハチャハチャSFだとてっきり思うじゃないですか。この「コンタクトゾーン」も、国情不穏な南国リゾートに、「為替が暴落してるからブランド品買い放題」つって来るOL三人組が内乱に巻き込まれてジャングルの中を逃げ回る話、とか聞いてもっとスラプスティックな展開を期待したんですよね。内乱も、海賊くずれや時代錯誤のマオイスト、土着化したイスラム民族派にバルチスタンから来たイスラム過激派、近代と前近代を使い分け、ゲリラ同士を両天秤にかける部族社会の村々と複雑な様相を呈し、矢作俊彦とかならかなり皮肉な感じに描きそうですが、篠田節子はなんか真っ正直に描いてしまう。設定で一番大風呂敷を広げて、あとは地味というか稠密な描写を一つ一つ繋げていく。目の前の状況の説明だけだと大状況が全然わからないんで、多少読者サービスみたいな説明もあるけれど、こういうのはご都合主義ではなくて親切というものでしょう。パターンに落とさずに丁寧に書けば、これだけ分厚くなるのも納得ですが、さすがに中盤はちょっとダレ気味。