マジカルガール

マジカル・ガール [Blu-ray]

マジカル・ガール [Blu-ray]

ネタバレ注意。未見の人はwikipediaのあらすじとか読まずに見ることを強くお勧めする。
公式サイト
2014年のスペイン映画。白血病で余命いくばくもない少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。娘のために、父親のルイスはユキコのコスチュームをプレゼントしようとするが、彼女が欲しがってるのは有名デザイナーの一点もので、値段は90万円。失業中の元国語教師にそんなカネはない。そこで、ルイスはどうするか。
日本の魔法少女を題材にしたスペイン映画、というのでも話題になった。ユキコのコスプレしたアリシアは予告編でも出てたけど、正面から無表情で睨んでて、なんかコワイんだよね。明らかにフツーの映画じゃないオーラがビシビシ出てた。果たして、魔法少女といっても、まどマギ+黒蜥蜴とか、むしろファムファタールとでもいうようなもんです。
かなり技巧的な構図のアバンから、長山洋子の「春はSARASARA」が流れるタイトルバックにつながる。先が読めない展開、というかこの話がどこに向かってるのか、一体この映画がどういう映画なのか、最後までわからない、見たことのない類の映画です。アリシアとルイスの話だと思って見てると、いつのまにか心に闇を抱えた人妻バルバラと元数学教師ダミアンの話になって終わる。スタイリッシュな映像で、怖いシーンとか残虐な描写とかは一切ありませんが、見せない怖さがあって印象はえらくエグい。無垢な少女の願いが、変態的な不幸を連鎖させて、それが最後にぐるっと回って狂気と裏腹な一途の純情みたいな純粋さに戻ってくる。悪魔に魅入られた恍惚とでもいうんでしょうか。「マジカルガール」って、ユキコに憧れるアリシアのことかと思ってたんだけど、確かにそういう意味もあるけど、バルバラのことでもあるんだよね。元魔法少女の魔女、とか。
こっからは私の妄想になるけれど、映画では伏せられていたバルバラとダミアンの過去。ダミアンは少女時代のバルバラに人生を狂わされて刑務所に10年入ってたんだけど、何やったんだろうね。バルバラはダミアンを守護天使と呼んでたことを考えると、何かお願いされちゃったんだろうか。誰かにいじめられたとか、そういうことで。或いは、何かで彼女を庇ったのかもしれない。ダミアンはバルバラの嘘に振り回されて、それでも彼女を庇って、黙って刑務所に行ったのかもしれない。そして刑務所でカウンセリングを受けて、人生を立て直そうとして、でも結局同じことを繰り返した、と。アバンタイトルで少女時代のバルバラだ見せる手品は教師をからかうものだったけど、ラストでダミアンが見せる手品は、純粋な愛情の表現になっている。ダミアンの愛情というか、一途な純情は、冷酷非情な殺人と同居してるわけだけれども。
ラストシーンでは、ダミアンは手だけ、バルバラは目だけがアップになる。不倫の証拠が入った携帯電話が消えたのを見て、嬉しそうに涙ぐむ目は、無償の献身に感じ入っている。ユキコのコスプレ一式を揃えたアリシアの目が全然笑ってなかったのと好対照。「アリシアバルバラ二人のマジカルガールが使い魔を使って魔法合戦する映画」という感想見て笑ったけど、でも確かに魔女と使い魔の、余人にはうかがい知れない愛憎関係を美しくも残酷に描いた、と言えるかもしれない。
しかし、ぞんざいなステッキがドレスの3倍くらい高いのは笑った。確かに魔法少女にはドレスよりステッキの方が重要だよな。