のの原兎太・溝口ぐる「生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい」

エンダルジア王国は魔物が魔の森から溢れ出す「スタンピード」によって滅亡し、跡には巨大な迷宮が残された。錬金術師マリエラは仮死の魔法陣によってスタンピードを生き残ったが、ちょっとした間違いがあり、起きたのは200年後だった。200年の間に王国の都市は廃墟となり、迷宮討伐の拠点となる迷宮都市が迷宮の周囲を囲んでいた。そしてマリエラは迷宮都市唯一の錬金術師となっていた。
錬金術師は土地の地脈と契約することで、地脈から命の雫を引き出すことができる。魔物の土地となってしまった迷宮都市では新たに地脈との契約ができず、そして錬金術師が命の雫を使わなければポーションは作れない。そして使った命の雫と同じ地脈の土地でなければポーションは役に立たない。迷宮都市では、過去の錬金術師たちが作ったポーションの在庫が高額で取引されていた。マリエラは自身の安全のために錬金術師であることを隠しつつ、なんとかポーションの捌き方を考えて、穏やかに暮らそうとするのだけれど。
錬金術以外はいろいろ残念なヒロインのスローライフファンタジー、だけど迷宮討伐隊の迷宮攻略は熱いバトルで盛り上がったりもするし、後半は結構派手になる。スローライフどこいったという感じだけれど、ちゃんと最後は戻るので安心して下さい。書籍版は全6巻で完結していて、手頃な長さ。
架空の材料で作る架空のポーションのレシピとか、架空の材料で作る架空の料理とか、細かく描写して面白く読ませるのはすごい。原作は文章もしっかりしていて読みやすい。スローライフ系で、全体を構成してしっかりヤマ場を盛り上げて完結させてるのは実は貴重かもしれない。
ノリは割と少年マンガで、バトルの合間にもこまめにギャグが入る。男性キャラの平均年齢が高くて、女性キャラの平均年齢が低い気がするけど、ヒロインの周りをイイ男で固めてるなあ。原作小説は「小説家になろう」でも読めます。

フランシス・フクシマ「IDENTITY」

アイデンティティ政治の齎した自由民主主義の危機について。現在のアイデンティティ政治に至るまでの叙述の大半は人間理解の哲学史。ルソーからフロイトに繋がり、そっからシモーヌ・ド・ボーヴォワールにつなげていく展開が面白い。
ルソーが人間の内面に善なる本質を発見し、フロイトが理性に抑圧された隠された自己ー無意識を発見し、内なる自己の開放が幸福をもたらすという発想が生まれた。主観的な内なる感情をボーヴォワールは「生きられた経験」として重視する。主観的な感情が「自尊心」として注目され、それが狭小なアイデンティティの並列に行き着いた。
アイデンティティとしてのナショナリズムについても大きくページを割く。排他的に働いて対立を生んだ反面、ナショナリズムの不在は分裂と内戦に向かうことになる。
国民国家を統合させるナショナルアイデンティティが重要という結論。人種・宗教ではない、多様性に開かれた理念に基づくナショナルアイデンティティによる統合。つまり移民の同化政策が重要であり、自己完結したコミュニティが並立することは民主主義を脅かす。民主主義の体制は政府と国民の契約に基づいて成立し、双方が義務を負う。国民の範囲を確定し、国民が参政権を行使するのでなければ、そうした契約は意味をなさない。
これは契約説的な発想?国家と社会が競い合うという「自由の命運」の議論でも、分断された社会は弱体であるからやっぱり統合は必要ということになる。オランダ的、レバノン的なコミュニティの連合体では立ちいかなくなるという話。
しかし、立憲主義、法の支配、人間の平等といった理念は「価値観を共有する」先進諸国が共有する理念であり、アメリカをイギリス、フランス、ドイツとあるいは日本と分けるサムシングがアイデンティティになるのではないのか。それは理念というよりは文化的、身体的、形而下のモノなのではないのか。ハンチントン的なモノは否定できない。

杉浦次郎「ニセモノの錬金術師」

ニセモノの錬金術師(旧異世界でがんばる話)1www.pixiv.net
pixiv連載中、現在274話。チートスキルもらって異世界転生した男が、錬金術師として生きていく話。転生した後錬金術の師匠の下で修行してから独立し、魔道具を売りながら地道に暮らしていた主人公が、助手として奴隷を買おうとするところから始まる。とにかく話が面白い。出てくるキャラもうまく立ってるし、いい味出してる。錬金術と魔法と呪術とそれぞれが別の体系になっている設定も面白いし、それがまた話を膨らませてる。ただ絵が下書きというか、ほとんどアタリだけみたいなコマも多くて、新キャラがいっぱい出てくると誰が誰だか分からないこともあったりする。スキルはハンタハンタの念能力っぽいけど、うまく消化されてる。あと、助手になった奴隷の子がエロかわいくて有能。

橘由華・藤小豆「聖女の魔力は万能です」

仕事に疲れて帰宅したOL小鳥遊聖(セイ)が、いきなり異世界に聖女として召喚されてしまう。ただ、なぜか同時に二人召喚されてしまい、しかも召喚されたのは一人だけだと勘違いした王子によってセイはその場に置き去りにされてしまう。扱いに困った王宮の人たちから衣食住の世話はされるものの放置されてしまい、手持ち無沙汰なセイは物珍しさから入り込んだ薬草園の研究所でポーション作りを始める。元の世界に帰れるアテもないなら好きなことをしながらのんびり暮らそうかと思うのだけれど、どうやら本当の「聖女」は自分の方らしいと薄々気づいてしまう。面倒事は避けたいと目立たないようにするが、ついついやりすぎてしまい、あれこれと注目されてしまう。主人公は呑気というか肝が太いというか、呼びつけられて放置とか、散々な扱いにキレても、怒ってるのがめんどくさくなっちゃう。それよりポーション作りが面白そうとなるとのめり込んでしまうタイプ。召喚されたもう一人の「聖女」の方がなんか苦労してそうだけど、この子はあんまり出番がない。やたらとしっかりしてそうな、王子の婚約者と主人公と三人での絡みは結構楽しいんだけれど、女子会一回やって終わりなのかなあ。
異世界転生というのは、普通の女の子をイケメン貴族の中に放り込んで少女マンガをさせるのにピッタリな設定だというのを再認識させてくれる。王道だけど、スムーズな展開で、何よりキャラにあざとさが無くて読みやすいし話が面白い。わりとストレスフリー仕様です。原作は「小説家になろう」連載中、コミック版は5巻までで書籍版2巻相当。

2021冬(2020/10-12月期)終了アニメ第59回調査

2020/10-12月期終了アニメアンケート (第59回調査)
http://anime-research.seesaa.net/
{総評、寸評など}
02,無能なナナ,B
超能力者を皆殺しにするために普通の人間であるナナが超能力者を装って仲間になり、一人ずつ殺していく話。密かに潜入した暗殺者、というのはサスペンスの定番ではあるけれど、超能力というファクターでトリッキーな話にした意欲作。どうも如何に相手を騙して罠に嵌めるかというパズルを入り口にして、人間同士の信頼と和解みたいなテーマに持ち込んでいくような感触だけど、いかんせん話が全然終わってない。原作まだ続いてるのね。超能力者サイドの危機感の無さに助けられてる面もあったりする感じ。2話までならA相当。

49,アサルトリリィ BOUQUET,A
最後の2話はすごい盛り上がったけど、そこにいくまでが長かった。ゲンドウさんがいい人だったネルフ、とかエヴァを換骨奪胎して分かりやすくした百合。結梨ってカヲル君だし、ラストはトップをねらえでしょ。マリみてとかレイジングハートとか、どっかで見たような要素を集めてて既視感が強いんだけど、アレンジがうまい。

2021冬調査(2020/10-12月期、終了アニメ、56+1作品) 第59回

01,まえせつ!,x
02,無能なナナ,B
03,魔女の旅々,x
04,ぐらぶるっ!,x
05,ギャルと恐竜,x
06,体操ザムライ,x
07,まるまるマヌル,x
08,安達としまむら,x
09,神様になった日,F
10,アクダマドライブ,x
11,トニカクカワイイ,x
12,くまクマ熊ベアー,F
13,魔王城でおやすみ,x
14,神達に拾われた男,x
15,レヱル・ロマネスク,x
16,憂国のモリアーティ,x
17,土下座で頼んでみた,x
18,炎炎ノ消防隊 弐ノ章,x
19,兄に付ける薬はない! 4,x
20,戦翼のシグルドリーヴァ,x
21,ゴールデンカムイ 第三期,x
22,おちこぼれフルーツタルト,x
23,池袋ウエストゲートパーク,x
24,別冊オリンピア・キュクロス,x
25,メジャーセカンド 第2シリーズ,x
26,かえるのピクルス きもちのいろ,x
27,100万の命の上に俺は立っている,x
28,エタニティ 深夜の濡恋ちゃんねる,x
29,いわかける! Sport Climbing Girls,x
30,秘密結社 鷹の爪 ゴールデン・スペル,x
31,もっと! まじめにふまじめ かいけつゾロリ,x
32,カードファイト!! ヴァンガード外伝 イフ if,x
33,シルバニアファミリー ミニストーリー ピオニー,x
34,ヒプノシスマイク Division Rap Battle Rhyme Anima,x
35,ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII,x
36,キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦,x
37,ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会,x
38,ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN,x
39,ハイキュー!! TO THE TOP 第2クール,x
40,アイドリッシュセブン Second BEAT!,x
41,BanG Dream! ガルパ☆ピコ 大盛り,x
42,A3! SEASON AUTUMN & WINTER,x
43,魔法科高校の劣等生 来訪者編,x
44,ご注文はうさぎですか? BLOOM,x
45,どうしても干支にはいりたい2,x
46,ツキウタ。 THE ANIMATION2,x
47,禍つヴァールハイト ZUERST,x
48,One Room サードシーズン,x
49,アサルトリリィ BOUQUET,A
50,ゾイドワイルド ZERO,x
51,NOBLESSE ノブレス,x
52,GREAT PRETENDER,x
53,それだけがネック,x
54,(全13話) 忍者コレクション,x
55,(特番 8話) 大人にゃ恋の仕方がわからねぇ!,x
56,耐え子の日常 (2期),x

参考調査

t1,(参考調査) HERO MASK Part2,x

(以下、自由記入)
(リストはここまで)

五示正司・びび「ひとりぼっちの異世界攻略」

とある高校の昼休みに、突如異世界転送の魔法陣が教室を包み込む。クラス全員がそのまま異世界へと送られるが、今さら異世界転生とか付き合えないと無駄に抵抗した主人公は、一人だけ別の場所に送られてしまい、貰えるはずのチートスキルは「体操」とか「歩行」とか「器用貧乏」「木偶の坊」と、残り物を押し付けられることになった。他のクラスメートとも逸れてしまった主人公は、ハズレの地味スキルを組み合わせながら、単独で異世界攻略を始めることになる。
とにかく一人で際限なくボケまくりツッコミまくる。書籍版だと読んでてだんだん疲れてくるので、マンガ版がちょうど良い感じ。ただ、書籍版の方がスキルの使い方を試しつつアレコレ工夫して、バトルの練習するプロセスが試行錯誤も含めて詳しい。わりとラブコメ。とりあえず3巻で最初の話が一区切りつく。

アニメ「裏世界ピクニック」

原作は小説、コミック版共に追いかけてます。第1話冒頭、空魚オフィーリアのシーンの違和感が引っかかった。ロングになった時、キャラが背景にうまく乗っからずに浮いているように見えた。人だけが映らない鏡面でできた立方体とか、キチンと見せてくれないし。裏世界の怪物の異音というのも特に無いし、裏世界への考察とかネットロアの蘊蓄とかも大きく端折られている。百合メインに絞ってるみたい。
3話目で原作者オリジナル脚本を入れてきたり、楽しめるところもあるけれど、あちこち削ぎ落として結構駆け足で話が進んでいく。「ステーション・フェブラリー」は結構丁寧にやるみたいだけど。