崖の上のポニョ

水没都市はロマン。ネタバレ、というような映画じゃないと思うけど、一応「続きを読む」にしとく。
作画アニメ、というのはホントだった。とにかく画面中にかき込まれた海の生物が動く動く。全部手描きだし、ディズニークラシックもかくやという勢い。ディズニーにはリトルマーメイドもあるし、対抗してみたんだろうか。岩場を歩いたらフナムシの群れが一斉にザザザと動いてったり、そんなんわざわざうごかさなくったっていいのに、ちゃんと書き込んでます。圧巻は津波相手のカーチェイスと波の上を走るポニョだけど、作画的には全編見所。サカナやスライムみたいな怪物が波になったり波がサカナの群れになったりという仕掛けで表現の枠を広げ、海をそのまま擬人化せずに意思をもって襲いかかる波を描いた。目玉はなんといってもそれなんだろうけど、水中から見上げる船とか台風で飛ばされそうになる宗介とかいいカットがいっぱい。強風といえばトトロでもさつきが薪を飛ばされるシーンがあったけど、今度は人間ごと持ってかれそうになるくらいの風でした。宗介の走りはみんないいですよ。ラスト近く、宗介がほとんど横に倒れながらコナンみたく走ってきてトキさんにポニョの入ったバケツを渡そうとして、中の水だけぶっかけるとことか、好きです。自家発電機とかポンポン船とかナゾな水中艇とか、メカなこだわりも健在でした。ポンポン船で水没した町の上を行くシーンとか、いいなあ。
ポニョがよく動くのは、パンダコパンダの昔から決まってたことで言うまでもない。でもかぼちゃパンツって今時珍しい。ポスターのポニョ見て、玖保キリコのキャラみたいだなあと思ってたけど、画面で見たらむしろカエルみたいな顔だった。魔法で出した足は鳥みたいだし。まあ吉田戦車かわうそがアリなら、人面魚のポニョだってアリだろう。
ストーリーは、人魚姫のポニョが友達になった宗介に会いにきたら津波で町が一つ潰れましたという、けっこうひどい話。それでも純真無垢なポニョはなんにも気にしない、というあたりは「荒ぶる神としての自然」という宮崎駿の趣味が入ってるのかもしれない。
カタルシスは、ありません。宮崎駿は魔女宅で映画的なカタルシスのために後半の飛行船の救出劇を入れたのが不本意だったらしいし、ポニョが宗介の危機を救うために頑張るなんて展開にはどう転んでもできなかったろうし、腰砕けエンドにしかなりようがなかった。そもそも人魚姫なら、魔女の呪いに打ち勝って真の愛を手に入れられるのか、というのがクライマックスになるんだけど、宗介にとってポニョは最初からサカナだからなあ。「ポニョがサカナでも半魚人でも構いませんか」って、今更なにを聞いてるんだとしか思えない。まあ腰砕けエンド自体は構わないんだけれど、町は沈むは人工衛星は落ちてくるは、やたらでかい話にしといてソレかよ、とは思った。
しかし少年が主人公ってのはすっごく久しぶり。ラピュタ以来か。もともと宮崎アニメはヒロインが強くて、男の影が薄かったんだけど、久しぶりに少年を主人公にしたら見事に周りが女ばかりになっちゃった。それも、同世代の保育園の友達は女の子が出てくるシーンが1回あっただけで、あとは母親とおばあさんばかり。これはハーレムアニメに対する皮肉なのか?ポニョを受け入れられる人が母親とおばあさんだけってことなんだろうか。少なくとも子供達がポニョを守って大人達と戦うみたいなよくある話はやりたくなかったんだろうね。
主役二人の声が子役なのはちょっと不安があったけど、映画全体でバランスがとれてて全然気にならなかった。声優のアニメ的演技が全くないのはいいんだけど、ただフジモトの所ジョージはどうなんだろ。重要なキャラなんだけどコミカルで情けないキャラで、もうちょっと声の演技のメリハリがあってもよかったように思った。