コクリコ坂から

宮崎吾朗第二回監督作品。けっこう面白かった。でも、明るい未来を信じられた過去の日本の描写で、「日本を元気にする」ってのは、なんか違うんじゃないの。ファンタジーはやらない、と言うのなら、今、現在の日本を舞台にしてこれを成立させないと。かつて存在していたとしても、現在失われてしまった風景の中でしか成立しない話なら、それはやっぱりファンタジーだろう。
主人公が朝起きるところから、朝食の支度をするところを丁寧に描く導入で、とにかく昭和30年代の生活空間を徹底的に画面上に再現していく。美術と動画はジブリの本領です。最近ならCGにするような、船の動きとかも手書きで動かしている。魔窟「カルチェラタン」の描写は監督の建物への偏愛が感じられて、一番の見所。自転車の二人乗りで坂道を駆け下りてくシーンも、気持ちいい。最後、主人公二人が、出航間際の船の船長に会うために港へ急ぐシーンは、映画的な盛り上がりのために加えた感がバリバリだったけれど。物語はシンプル。キャラたちがあれこれ語らず、ただ決意し、動くというのもあって、話はサクサク進む。吉永小百合とかの昔の青春映画を、アッサリと淡白にリメイクしたような感じ。
パンフレットに宮崎駿の文章が載ってるんだけど、まず原作マンガを失敗作と断じて、ここはいらない、あそこもダメと散々にクサしている。実際映画は原作を換骨奪胎、全然別な話になっている。キャラの設定も大幅に変更され、残ったのは毎朝旗を揚げる下宿屋の娘と、少年の出生の秘密がからんだ純愛ものということくらい。たしかに原作は80年ごろの典型的な学園少女マンガで、今さら映画化してどうなるという作品でもない。だったらなんでこの原作を選んだんだろう。旗を揚げる少女、がよっぽど気に入ったのか。
あと、細かいところだけど、後半三人で直談判に行った社長室で、扉付きの書類棚に並んでるのは五輪書とか葉隠とか、いかにも経営者っぽい本だけど、小卓に並べられてたのが、稲垣足穂の「少年愛の美学」とかで、海がアップになるとちょうどその後ろにあるから何度も映って、すごい気になった。