森博嗣「トーマの心臓」

萩尾望都作品のノベライズ。おおよそ原作準拠だが、どうやら舞台は日本らしい。なぜか日本人同士ユーリだのエーリクだのと呼び合っている全寮制男子校、らしいがそのへん詳しい説明はない。まあ変な説明をこじつけられても困るけれども。ただし翻案というわけではなく、特に日本風の描写がでてくるわけではない。むしろ無国籍となっている。従ってユーリのゲルマンの家系とラテン系の血筋の葛藤とか、関連する設定は大幅に改変されている。森博嗣は別にドイツ教養小説をやりたいわけではなく、少女マンガが書きたかったのだろう。そのためドイツのギムナジウムという設定を取り去って人間関係の心理ドラマに焦点を絞ったのだと思われる。ただ罪と赦し、魂の救済といったテーマが薄まった分、どうしても神父の話は浮いてしまっているが、さすがにそこまでは変えられなかった。
全般に描写はごくあっさりとすませており、文章は会話と語り手であるオスカーの内語が多くを占めるラノベ文体となっている。なので、萩尾望都のマンガのイメージが確固としてある原作読者としては結局ドイツの話として読んでしまうわけだが。挿画は萩尾望都。でも絵のタッチは「残酷な神が支配する」で、なんかこわい。