容疑者Xの献身

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

映画化された東野圭吾のミステリ。このミス1位でベストセラーで、というんでナメてたらガチのパズラーでした。
衝動的な殺人に天才型の共犯者がアドバイスして偽装工作をほどこす倒叙推理。で、その偽装工作の中身が謎だし、読者は犯人側に感情移入するような作りだし、けっこう凶悪だと思ったけど、ミステリ界では論争まで起きてたんですね。wikipedia読んで初めて知ったよ。
動揺する「犯人」に警察への対応を一つひとつアドバイスしていくというアイデアが面白い、と思ったけどそれが「警察に対する偽装」と「読者に対する偽装」とをまぜこぜにすることでトリックを隠す効果にもなってるんですね。ここまでやられたらもうすごいと言うしかないわ。こういうのを叙述トリックと呼ぶのは意味広げすぎな気もするけど、読者へのインパクトは共通するね。書いてないことに意味がある、というパターンですけれど、重要だけど書いてないことっていくつかあるから、ホント迷彩が徹底してること。
まあ、すごすぎて探偵役が素では歯が立たないんだ。倒叙ものだと、たいがい犯人の思わぬミスが決め手になるんだけれどこの「犯人」は何一つミスしてないからね。単に学生時代に、後に名探偵となるもう一人の天才と友人だった、というだけなんだから、そんなのただの運じゃん。それでも「小説」にするためにこのラストを作者は選んだんだと思う。