スティーヴン・キング「ライディング・ザ・ブレット」

ライディング・ザ・ブレットRiding The Bullet
お勧め度:A+

ライディング・ザ・ブレット

ライディング・ザ・ブレット

人生は一度きりの経験であり、やり直しがきくわけではない。後悔先に立たず。だから決断を迫られることは恐ろしい。どちらを選んでも後悔するような困難な決断であればなおさら恐ろしい。そこに超自然の香りをふりかければ、なにかうまい解決法がありそうに見える。けれども、逃げ道などはないのだ。
人間をかき分けるということをしていくと、この人はなにが怖いんだろう、なぜ怖がるんだろう、と次第に内面に入っていってしまう。怖がらせるモノよりも怖がる人の怖がり方を描写していて、ついジュンブンしてしまいました。「ローズマダー」あたりから、なんかエピローグが長くなってきてる気がするんだけど、これなんか半分以上エピローグとも言える。ホラーな一夜が終わって日常に戻ってきても、その日常は以前と全く同じではありえない。強烈な体験がものの見方を変えてしまうんだね。しかし一方で、繰り返される日常性は非日常の体験を侵食し、色褪せた記憶にしてしまう。日常というのは継続するリズムなんだから。同じようで違う世界でもあり、また違うようで同じ世界でもある、そんな二重写しの世界を見たとき、日常と非日常というステレオタイプの境界が曖昧な黄昏の領域に立っていることを知るのだ。
病室に横たわる老いた母とか、車の中のにおいとか、キングファンには懐かしい小道具だね。