ジャスティーン・ラーバレスティア「あたしと魔女の扉」

ファンタジィの概念をくつがえす、との謳い文句も決しておおげさではない。
主人公のリーズンは「邪悪な魔女から逃げるために母親とオーストラリアの田舎を逃げ回ってる少女。黙々とフィボナッチ数列を暗算していたり、何百枚もある写真の枚数を一目で数えたり、サヴァン症候群なのかと思わせる描写がつづく。「魔女」に育てられた母親は、魔法を否定してリーズン(理性)と名付けた幼い娘に数学と生きるための知恵を教え込むけれど、人ごみを避け学校にもやらず小さな村を転々と逃げ続けている様子にはなにか異様さも感じる。
原題が"Magic or Madness"だということもあって、てっきり魔法なのか狂気のなせる幻覚なのかわからないって話かと思ったけど、そういうのとはちょっと違った。でも何が本当で何が嘘か、誰が敵で誰が味方かわからない展開は、期待通り。登場人物がそれぞれ心理をもって、多面的に描かれていて、状況次第でそれぞれの関係も変わっていくから人物描写も奥行きが出て話も面白くなっている。話の中心となる「魔法」もハリポタ的な魔法とは違う、超常感覚の生理的表現からSF寄りな趣向が楽しめる。
各章の長さが短くて、少年少女の成長小説になってるあたりは正統ジュブナイル。三部作なので三冊揃えて読むのが吉。