川辺敦「怪奇・夢の城ホテル」

お勧め度:A-

出るという噂のある、廃虚となったホテルに取材のためにのりこんだテレビクルーが体験する恐怖、というオーソドックスなホラー。
小説中の登場人物が幽霊を信じてるのか信じてないのか、怪奇現象にどう反応するのか、そのあたりの描写が特にモダンホラーでは大きなポイントになる。読者はそのつもりで読んでるわけだから、幽霊はいるんだという前提で話しが進むことは一向に構わないんだけど、登場人物まであっさり信じてしまうのもなんだかご都合主義でばかみたいだし、かといって登場人物の説得に手間取ると話しが進まずにまだるっこしい。本作は、そうした幽霊を出す手際がとてもうまい。合理主義や科学的解釈との折り合いもよいし、ストーリーの進行を邪魔していらいらさせるようなキャラクターもいないし、引き込まれるように一気に読める。妙に理に落ちた解決とかもつかないし、単に怖い話としてごろりと転がしてあるという点で上質の怪談です。表紙のセンスの悪いイラストだけはなんとかしてもらいたいけど。
でも山岸涼子の「汐の声」の方がこわかったからシングルA。