坂戸佐兵衛 旅井とり「めしばな刑事タチバナ」

説教はじめたりしないし、リアクション芸バトルもない、あくまで飯バナのみ。気づいたらもう26巻です。取り上げる店、商品全部実名で、だいたい食べたことあるか、見たことあるものばかりで、知らなくってもなんとなく味の想像がつくというのがポイント。そして基本的に貶さない。500円のうな丼で700円分の満足が得られればトク、というスタンス。回転スシのアワビはロコ貝だ、とか高級店の近海物が、と言うと「俺たちは世界を相手にしてるんだ」と言い返す、とか大人気ない言い合いが味です。かなり突飛な味付けには、「オルタナティブな味わい」とか、「俺には完食がギリだった」みたいな表現もあったりはしますけど。
だいたいコミックス1冊に一つ大ネタが入って、間を小ネタで埋めるという感じで、初期の頃は小ネタと言ってもウンチク満載だったり、力入ってたんですが、さすがにそろそろネタも切れてきた感じもあって、ただキャラがみんな立ってきたから掛け合いで保たせるようになってきたかなあと思ってたところで、ここにきてまた盛り返してきました。
今回の大ネタはファミレスでのちょい呑み。500円で、ドリンクとおつまみを楽しむという話です。普通にグラスワインとおつまみ2品でワンコインだぞ、という話が研究会を立ち上げてワンコインで何品頼めるかという話になって、どんどんいじましくなって行く。そのうち好きなもの食わせろ、と言い出すオジサンが500円以下にこだわる研究会内で揉め出して、双方大人気なくエスカレートしていきます。以前朝食ネタでもやってましたが、意外なバリエーションの広がりというか、色々な意味でのギリギリ感があって、オチもついてるし、盛り上がりました。前にCoCo壱番でカレーのルウがタダでお代わりできる、というネタを書いた後でルウのお代わりが有料になったことがあって、書き方に気を使うようになってたと思ったんで、ここまでは書いてオッケーな確信があって書いてるんだろうなあと思いつつも、ちょっと心配になったりもして。
1話完結の小ネタも、歌舞伎揚とぼんち揚の違いとか、最近の焼き芋事情とかオジサン的にいいネタでした。えび満月の小エビとアオサの組み合わせを絵として鑑賞するなんて話も、妙に納得したり。
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9巻もほか弁の歴史と地域的な違いを追求してて読み応えあったんだけど、その他にこれまでで印象に残ってる巻をいくつか挙げて見ます。シリーズの方向性を明確に打ち出して始めていて、ネタが詰まってます。牛丼チェーンや袋入りラーメンの語りの本気度や大人気ない言い合い、ウンチクを語る一方で半可通なウンチクに対する自虐的な批判など、シリーズのエッセンスがだいたい出揃ってます。「立ち食いそば大論争」は立ち食いそばの評論になっていて、私はこれでハマりました。前巻からの続きの「カンヅメ夜話」と「カップ焼きそば選手権」さらに「世界の即席焼きそば」と飯テロてんこ盛りです。カップ焼きそばを語る精度の高さに圧倒されますが、東南アジア諸国アメリカでの即席焼きそばルポにも激しく興味をそそられました。反響が大きかったのか、作者がこだわってたのか、この後6巻でも続きを書いてます。3巻の続きの「カップ焼きそばUSA」もありますが、何と言っても圧巻は「ポテトチップス紛争」です。ポテチの発祥から日本伝来の歴史、カルビー湖池屋の二大ブランドとニッチなわさビーフ、そして近年のヘルシー志向まで、徹底的に語り尽くします。
暴論をぶつけ合ったり開き直ったり、大人気ない言い合い芸もひとまず完成の域に達します。「木根さんの一人でキネマ」もマニアの意地のかかった言い合いネタとか扱ってるのと通じるとこがあります。20巻までとんで、「ソース広域捜査」です。「ウスター・中濃・とんかつ」などのソースの種類から始まって、日本各地の地域ごとのソース文化と地ソース、そしてソースの歴史、と時間的・空間的に広げて8回にわたって語りまくります。思わず常備ソースの種類増やしちゃいましたよ。