アダム・ファウアー「数学的にありえない」

数学的にありえない 上

数学的にありえない 上

数学的にありえない 下

数学的にありえない 下

SFというか、風桶小説。
数学に弱くても大丈夫、とコシマキの推薦文に書いてありますが、本文中で初学者向けの解説を懇々と繰り広げてるからです。前半は、なんだかドラマの総集編みたいな人物紹介と、トリビアを交えた確率や量子力学の解説から統計的世界観につなげていく説明が交互に続きます。トリビア、と言ってもシュレディンガーの猫とか、パスカルの賭けとか、有名どころばかりです。一応謎で引っ張る構成になっていますが、シュレディンガーとかラプラスとかの名前でピンと来る人には見え見えな展開です。別に解説中に伏線が、とかそういうこともないので、「知ってるよ」な人は飛ばし読みしても後で困ったりはしません。
主人公は無数に分岐していく未来をすべて観測し、好きな分岐を選択できるというほとんどルール違反な能力者です。なので、風が吹けば桶屋が儲かるような展開を地でやってのけます。どんな都合のいい偶然であっても全て必然なので、無茶なアクションだって思いのままです。ポテチで武装ヘリに対抗したり、やりたい放題です。
それでも、自分の関与しない将来の分岐までは操れないということで、窮地に陥ったりもするんですけれど、最終的にはハッピーエンドで丸くおさまります。登場人物それぞれにエピローグをつけて、後を引くとか余韻を残すというようなことは一切させない徹底的な決着を付けて回るので、気軽に読める娯楽小説です。