ダークナイト

話題のジョーカーを見てきた。
全編をジョーカーの圧倒的な存在感が覆っていた。ぼさぼさの髪、薄汚れたような白塗りメイク。笑わない眼、舌をぺちゃぺちゃ鳴らすクセ。恐ろしく、そして信じがたいほどに、魅力的だ。
ナイフを弄びながら自分の傷の由来を語り始めるジョーカーにはマジでビビる。本編中ではさまざまな「脅し」のシーンがある。トゥーフェイスがマフィアの手先になった警官を銃で脅す、バットマンがジョーカーを殴り飛ばす。でも人を支配する「恐怖」を知り尽くしているのはジョーカーなんだ。
ジョーカーだけが、恐怖から自由なんだ。高層ビルから突き落とされようがへらへら笑ってる。山と積み上げられた札束に平然と火を放つ。俺が王だ、と叫ぶのはなにものにも囚われず、縛られないからだ。俺には計画なんてない、陰謀家はお前らだ、と叫ぶのは将来に全く興味がないからだ。未来も過去もない、絶対無の地点から破壊と嘲笑を浴びせかける。だから純粋に「悪」なんだ。
女装なんかする意味あるのか、というようなものすごいジョーカーの女装っぷりも見所です。現場から立ち去るところで、変装のためになでつけた髪を手でかきむしってわざわざぼさぼさにするんですね。そのちょっとした仕種で自分の引き起こす大惨事にいかに無関心かわかります。こういうちょっとしたところが異常なキャラクターの存在感をささえてるんです。緊張のし通しで、こういうとこくらいしか息抜きできないってのも疲れますけど。上映時間長いし。
ストーリーの迫力におされがちだけど、巨大トレーラーが棒立ちになってひっくり返ったり、アクションもいろいろ見所あります。バットポッドだのランボルギーニだので、車の列の間をぬってすっとばしてくシーンとか、定番だけどうまくサスペンスの流れを盛り上げて気持ちのよい仕上がりになってました。
ところでバットマンは捜査現場でも警察署内の取調室でも警官を追い払って勝手にしたいことしてるし、「正義」の名の下に動いてる人たちはけっこううさんくさいんですよね。だから最後に出てくる、役名もないデカい囚人が一番カッコいい。
タイトルの「ダークナイト」dark knightは、本編中何度も出てくる「ホワイトナイト」の対語です。バットマンは素顔を隠した無法者の自警団ではなく、法の下に犯罪と戦う検事に街の平和を委ねたいと考えるわけです。いずれにしろ「正義のヒーロー」は必要だ、というわけです。でもそのヒーローは虚構なんです。究極の悪を描き出すことで、ヒーローの虚構性を吐露せざるをえなくなる。善悪の概念そのものを問わざるをえないから。ジョーカーはそのための充分なリアリティを見せつけました。
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warota