馬場翁「蜘蛛ですが、なにか?」

蜘蛛ですが、なにか? (カドカワBOOKS)

蜘蛛ですが、なにか? (カドカワBOOKS)

とにかく、お話が面白い!普通の女子高生がなぜかいきなり異世界に転生する、というハヤリの転生ものだけど、転生先が蜘蛛。女子高生がクモ。しかも巨大ダンジョンの只中で周り中はみんな自分より強い魔物ばかり。装備なし。食料なし。食べ物といえば、魔物を狩って調達するしかない。ということで、蜘蛛子ちゃん必死のサバイバルゲームが始まる。グジグジ悩まずカラッとポジティブで、苦いの不味いの言いながらカエルだの虫だの食べて頑張る蜘蛛子ちゃんが魅力的で、外道でも無慈悲でも構うこっちゃないのだ。
圧倒的に不利な状況から知略を尽くして自分の有利な状況を作り出そうとする攻略の面白さに特化して、飽きさせない展開でグイグイ読ませる。話が進んでくと、同じく転生した他のクラスメートだとか、王国宮廷内の陰謀だの人間と魔族の戦争だの、いろいろ話が膨らんでくけど、陰謀劇とか人間関係のドロドロとかは説明程度で流してくから、あんまり他のキャラはふくらまない。友達同士の関係はともかく、親子とか大人の関係は書けないから書かないのかな。先生も輪をかけて軽いノリだし。社会的な人間関係の力学とか用無しなので、多分ふくらませようが無いんだと思う。それに対して蜘蛛子ちゃんの存在感は圧倒的。作者自身が蜘蛛子ちゃんに大いに入れ込んで書いてるんだと思う。王国の運命を担う責任に悩み、いろいろ自省したり兄弟や仲間のことをあれこれ考える勇者とか、男から女に転生してジェンダーギャップに悩む「親友」とかの内面描写もあるけど、蜘蛛子ちゃんの独白に比べるとどうしても浅い気がしてしまう。友人も仲間もなく、孤立無援でただひたすら戦う蜘蛛子ちゃんの内面描写は軽いノリの文体でも、一つ一つが生き生きしててどうしたって感情移入してしまう。人間に対する距離感とか、畏怖すべき強大な地龍アルバに対する複雑な感情とか、自然に同調してしまう。
外見や情景の描写が少ないのは意図的な面もあるみたいだけど、スキルやらステータスやらあからさまにゲーム世界で、余計な修飾なしで書きたいものだけに特化してる。あれこれ悩まない軽いノリの文体としっかりした構成で、お話の面白さそのものに引き込まれる。
「[小説家になろう」掲載小説の出版で、web販の方もまだ書き続けてるので話の先の方まで読めるけど、出版されたものの方が面白い。web販の方は書きたいプロットに小説がついていけない感じがあったりして、先にそっちを読んじゃうと勿体無い気もしたりする。
蜘蛛ですが、なにか? (2) (カドカワBOOKS)
蜘蛛ですが、なにか? (3) (カドカワBOOKS)
蜘蛛ですが、なにか? 4 (カドカワBOOKS)