佐々大河「ふしぎの国のバード」

19世紀後半の世界各地を旅して旅行記を書いていた英国女性イザベラ・バードが、明治初期の日本を旅した記録「日本の未踏の地」のマンガ化。バードは通訳一人を連れて、ヨーロッパ人が誰も来たことのない東北の農村を訪れ、北海道に渡ってアイヌの村を巡った。平凡社ライブラリーから「日本奥地紀行」のタイトルで普及版の全訳が出ている。読み比べると、エピソードをうまく拾って膨らませていることがわかる。
例えば「日本奥地紀行」第十三信には、馬子が落し物を暗い中一里も戻って捜してきてくれたがお礼は頑として受け取らなかったこと、馬が転んで荷物が散乱してしまい、拾い集めなければならなかったこと、杉の枝に老人が首を吊った麻縄がかかっていたこと、男が足で踏んで練ったそばがきらしきものを食べたことが出てくる。マンガでは通訳の伊藤がえらく手の込んだ夕食を作っているが、実際のところ料理の腕はあったらしいけれどそこまですごくはなかったっぽい。原作では、チキンのシチューか何かを作ろうとして鶏に逃げられてしまったということが書かれている。町でお菓子を買ったことは書いてあるが、大量に買い込んだわけではないし、伊藤の菓子好きは創作だろう。
貧しく不衛生で衣食住全般に乏しい環境で、礼儀正しく高い職業倫理を持っている当時の日本人については何度も言及があるけれど、バード自身の文章は、マンガのような思い入れはない。その辺は記録としての側面が強い。
しかし140年前の日本の山村とか絵を描くのは資料集めとか大変だろうなあ。そのまま絵にするだけでも資料が必要だし、さらに膨らませるとなったら、バードが書いてないことも調べる必要があるわけだから。
ふしぎの国のバード 1巻 (ビームコミックス)
ふしぎの国のバード 2巻 (ビームコミックス)
日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)