清涼院流水「コズミック」(流・水)/「ジョーカー」(清・涼)

コズミック(流・水)/ジョーカー(清・涼)
お勧め度:B+

コズミック (講談社ノベルス)

コズミック (講談社ノベルス)

ジョーカー―旧約探偵神話 (講談社ノベルス)

ジョーカー―旧約探偵神話 (講談社ノベルス)

文庫本で四冊、上・下のかわりにコズミックは流・水、ジョーカーは清・涼の二巻にそれぞれ分かれています(いました)。ミステリ系ということで、ネタバレには特に気を配りたいところなんですが、なにがネタばれになるのかよくわからなかったりもするので、以下の文章中にはあなたにとってネタばれと思える記述が含まれている可能性があることを警告しておきます。
読む本というより語る本、というか。読んだ人が近くにいなかったら無理やり読ませてでも語り合うというか肴に盛り上がるというのが適切な対応なのではないかと。作中でも有名なノックスの十戒を初めとする推理小説の掟がでてきますが、ミステリのルールどころか「小説としてやってはいけない事」に片端から挑戦してしまっているので、ツッコミどころには事欠かない。地雷原でサッカーやってるような本だから、この種の否定的評価は望むところというか、貶せば貶すほど結果的に評価してることになってしまったりする罠。最高か最低か、中途半端な評価はできないということでシングルB。
とにかく人物描写や演説が大量に書き込まれていますが、なんだか長大な設定資料集を延々と読まされているような気がしてけっこう読むのが苦痛でした。よくあるプロットでも、文章力で読ませたり演出でふくらませたりいくらでも面白い小説になるわけですが、カタログ的に並べられてもちょっと困る。設定さえあればあとは脳内補完して、むしろ本編はジャマという人でないとなかなか読み通せないのでは。SSとか書くつもりがなかったらとばし読みしちゃっても構わないと思います。(SS - Short Storyとは、マンガや小説などから設定だけを借りてきて作ったファン小説のこと。昔はパロディと言われました)心理描写やら過去に遡る因縁やらいろんなエピソードの中には、トリックというか小ネタのギミックもいろいろ入ってますが、まあどうでもいいです。で、その辺を盛大にすっ飛ばすと、推理と称する犯罪現場をネタにしたアナグラムというか、地口や語呂合わせが残ります。探偵がそれぞれ犯人のサインだとかニセの手がかりだとか言うわけですが、本当の手がかりなのかニセの手がかり(ミスディレクション)なのかどうかの違いは、よりランクの上の探偵が指摘するかどうかということで、実際のところどっちに解釈しても大差あるようには思えません。でもそこもすっ飛ばすと読むとこなくなっちゃうんで、とりあえずつきあうしかありません。そんで最後まで読むと、実際どっちでも構わなかったという大どんでん返しが待っています。メチャメチャ広げまくった大風呂敷をまがりなりにもたたんだことは認めましょう。小説を読んでこんなことをきくのは意味がないこともわかります。でも、二千ページ近い文庫を読み通した読者としては、「だからなんだってーの!?」と叫ぶしかないでしょう。(とばし読みしてるじゃんとかツッコむのは禁止)まあ、ある種の夢オチみたいなもんです。なんなら最後から読み始めて、興味があれば前に遡って読んでいくのも可。