サラ・パレツキー「ビター・メモリー」

ビター・メモリー (Hayakawa novels)

ビター・メモリー (Hayakawa novels)

女探偵もののはしりともなったV.I.ウォーショースキーのシリーズ10作目。シリーズの中でも時間は流れていて、登場人物たちは次第に年をとってます。コーンウェルの検死官シリーズとかもそうでしたよね。こういうのは好き。どっかに向かってる感じがするから。
主人公ヴィクは相変わらず「ピンボールみたいにシカゴじゅうをとびまわって」います。それにしても忙しい。事件を抱えて駆け回りながらも、犬の散歩もしなくちゃいけないし、知り合いの家の女の子が大切にしてるぬいぐるみも洗濯しなくちゃいけない。食べ損なった朝食やらお気に入りのブラウスの洗濯やら、全てのことが同時進行して息つく暇もない。日常、というか生活感のある部分と事件をうまく織りまぜて緩急を作ってるからテンポよく読めます。しかも、周り中敵意に囲まれても怯まず自分の信念を貫いてハードボイルドになってるし。と、いろいろほめたけど、シリーズの中では今回はいまいち、なんでシングルA。
妄想の虜になって暴走するストーカーやら、「弱者の味方」な自分に夢中のセラピストやら、自己主張の強い脇役に埋もれて、犯人の印象が薄くなってしまっている。それなりに面白いキャラクタではあるんだけれど。こういう時、「デンパと正義厨ウザイ!」で済む2ちゃん語って便利だなあ。
原題は"TOTAL RECALL"、あと章ごとのサブタイトルも「ピンボールの天才」「ポール・ラドプーカと秘密の部屋」とか、映画がらみのタイトルになっています。原文がわからないと、全部チェックするのはむずかしいんだけれど。アメリカのサイトとか検索したら誰か対照表作ってるかな。
ホロコースト犠牲者の資産保全とか、奴隷制度受益企業への損害賠償請求とか、過去の抑圧に対する補償請求というトピックを背景に使っていて、そのへんは日本人としてもいろいろ興味のあるところです。
ねこまくら読書日記 - bookグループ より転載

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