肋骨凹介「宙に参る」

to-ti.in
リイド社がやってるサイト「トーチ」で連載中のWEBコミック。肋骨凹介(あばらぼねへこすけ)はこれが商業デビュー。
宇宙船が今でいうセスナ機くらい身近になった未来の話。主人公の鵯ソラは夫を亡くして寡婦になったばかり。いきなり葬式のシーンから始まる。と言っても夫婦が暮らしてたのは地球から遠く離れたコロニーで、会葬者は地球から遠隔映像での参加となる。夫婦共コロニーで働く技術者だったのかな。そして遺骨を届けに、人工知能搭載ロボットの息子を連れて地球まで45日間の宇宙旅行に出かけることになる。
ソラは「機械とプログラミングに妙に長けている」と紹介されているが、遠隔葬儀に合わせて地球から焼香できる焼香ロボを造っちゃったりしていて、長けているというレベルではない。後のエピソードで、ウィザード級なとこも垣間見れたりする。ちょっとくだけた感じで技術系というか手に職系の日常SFで、読んだ感じは、あさりよしとおっぽい。コメディなんだけど、ロジカルな皮肉っぽさが後ろで支えてるみたいなとことか。
更新されたばかりの4話はソラが乗っている宇宙船の関係者の技術営業員が視点になって、技術者から見たソラの不思議さ、という話なんだが、その技術営業は船内のおでん屋で他人の注文聞きながら品書き見て暗算するんだな。それが頭の中のホワイトボードで表現されている。最後の方で少しだけ説明があるのだけれど、おでん屋のメニューは198円とか398円とか、全て下二桁は98円。なので98を100−2として、百の位と下二桁と分けて計算してる。さらにメニューは198円、398円、598円と、百の位は皆奇数になっている。「だから」、合計2288円と聞いて「あれっ」と思う。まず、88=100-12で、下二桁98円を(100-2)円として計算してるわけだから、x✖️(100-2)=x✖️100-12と考えて、x=6、6✖️(100-2)=588 つまり6品頼んだということがわかる。下二桁の合計は588円なので、あとは6品の百の位を計算してたし合わせれば合計金額になる。2288-588=1700だから、100、300、500の中から6品で1700になる組み合わせ、ということなんだが、その組み合わせはあり得ない。奇数を偶数個足したら偶数になるからだ。それで何か裏メニューか、とか思ったりするわけだが、まあ読者としても、こう段階を踏んで考えればわかるけど、さらっと読んで理解するのはなかなか難しい。と言ってもあくまで技術営業員のキャラ描写の一つで、別にこの辺の理屈がわからなくても構わず読めるし面白いし、その意味でバランスもいい。とにかく、頭の中のホワイトボード暗算そのものも含めて、新鮮な感覚だと思う。

蝸牛くも「天下一蹴」

デビュー前の蝸牛くもが第7回GA文庫大賞に応募して最終選考で落とされたという幻のデビュー作。というか、自分で落としたクセに、幻のデビュー作とか銘打って盛り上げてしまうマッチポンプぶり、GA文庫ナイスです。
主人公は今川氏真桶狭間で破れた今川義元の息子。塚原卜伝に新当流を学んだ一方、蹴鞠や和歌に秀でた文化人。武田、徳川に攻め立てられて駿河を失い、妻の実家である北条を頼るも結局追い出されて徳川家康の庇護下に入り、信長に蹴鞠を披露したりして戦国時代を生き抜き天寿を全うした人物。江戸時代の評価は、歌で国を滅ぼした暗君とか叩かれていたわけだけれど、蝸牛くもは家も国も一蹴して好きに生きた自由人として描いた。
本書は、北条を追い出された氏真が、家康の依頼を受けて信長に蹴鞠を披露するため妻と二人連れで浜松から京に上る道中の物語。ただし蹴鞠披露はあくまで表向き、実は手にした者が天下をとると言われる天下刀、義元左文字を信長に届けることこそが真の用向きであった。そして、刀を狙い氏真の命を狙うのは甲賀金烏集。次々と襲いかかる恐るべき忍術使いに、氏真は新当流剣術と、飛鳥井流の蹴鞠で立ち向かう!
ダークファンタジーゴブリンスレイヤー 」の作者だけに伝奇風味ですが、そこここに時代小説愛が炸裂しています。婆娑羅娘な奥方、蔵春もいいキャラです。しかもまた伊東悠の表紙イラストが、二人の魅力を一目瞭然で伝える、いい絵なんだよなあ。
蝸牛くもの書く人物って、ゴブスレにしても氏真にしても、すごい重たい過去を背負ってても屈託がなくてストレートなんですよね。それがうまく活きて、気持ちの良い活劇に仕上がってます。

ケムリクサ #8

赤い霧を発生させている赤い根の根本を断つために谷へと降りていった一行。次から次へと襲ってくる赤虫はキリがない。そこに、なぜかワカバに懐いてる白虫が現れた。
白虫は、ドローンのような自律歩行する機械で、話しかけるとディスプレイに文字を出力して会話できる。どうも白虫が赤い霧に侵されると赤虫に、青い霧に侵されると青虫になるらしい。白虫、見たまんまルンバとか言われてるけど、なんだかけもフレのラッキービーストをどうしても思い出してしまうよな。その白虫が付近の地図を見せてくれたので、一行は赤い根の先端を迂回して、島の奥へと向かうことができた。
山を貫く急勾配のトンネルを登って、反対側の中腹に出たところに打ち捨てられたフネがあり、その中には何台もの白虫が待機していた。「船長」の命令を待ってずっと待機していた白虫たちは、ワカバの命令を受けると喜び勇んで通路を塞ぐ赤い根の排除に向かい、赤虫になる前に自ら機能を停止する。
なんか攻殻機動隊SACタチコマを思い出してしまった。
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG #25 憂国への帰還 - ねこまくら
ただ違うのは、ワカバは実行の許可を出してること。あまり結果とか深く考えずに許可したっぽいだけに、指示する者の責任の重さに激しく動揺する。そして動揺するワカバを見て、リンもまた未知の感情を揺すぶられる。
しかしこういう機械とか動物の健気さって、定番のネタではあるんだけれど、心に刺さるなあ。
やはり白虫も赤虫も、壁もとにかく動いてるものはみんなケムリクサで動いてるらしい。「最初の人の葉」は今リンが持ってて、それが何かカギになってるらしい。6姉妹は、目、耳、鼻、舌、皮膚、体力?に特化してるらしい。耳がリツ、舌がリナ、皮膚がリクでリンが体力?リョウとリョクが目と鼻なんだろうけど、どっちがどっちかは分からん。
なんで山の中に船があったのかと思ったけど、湖が干上がったってことなんだろうな。

スティーヴン・キング「心霊電流」

キングは年に2冊のペースで長編を発表してるそうで、翻訳が追いつかない。本書も「ミスター・メルセデス」と「ファインダーズ・キーパーズ」の間に出したそうです。老いて益々旺ん、です。メアリー・シェリーとアーサー・マッケンにインスパイアされた、ということですが、冒頭の献辞に挙げられた作家は、クトゥルフ関連が多いよね。実際「ネクロノミコン」「無名祭祀書」と並ぶクトゥルフ神話の魔導書「妖蛆の秘密」がキーワードとして出てくるし。キングは以前短編「クラウチエンドの怪」でクトゥルフ物を書いてますけど、長編ではこれが初めてになるんじゃないかな。
本書の語り手であるジェイミー・モートンが6歳の時、初めてチャールズ・ジェイコブ師に会ったところから話は始まります。チャールズは、電気じかけで動く、キリストの水上歩行の奇跡を再現するジオラマとか作ってる、変わってるけど熱心な牧師でした。教区の住民からも支持され、特にチャールズの「奇跡」で救われたことがあるジェイミーの一家は、牧師と親交を深めました。しかし、悲劇が起こり、牧師は町を去ります。ジェイミーはその後ギターに夢中になり、恋人と幸せな青春時代を過ごします。そして、場面は溶暗します。人生の陥穽に転落したジェイミーはチャールズと再会し、再び「奇跡」に救われます。ただ、その奇跡には不気味な代償がありました。
モートンの転落と救済から話を始めて、回想シーンをはさんで発端を語り起こすというのがよくある構成だと思うんだけれど、キングは最初っから全部書くんですよね。途中の青春時代エピソードをダレずに読ませられるから、後半のクライマックスのための伏線もしっかり張れるし、ジワジワと恐怖を盛り上げていけるんだ。

ケムリクサ

他に誰もいない廃墟世界で、ヒトっぽい姉妹が赤虫と戦い、水を探して生き抜く話。
「ケムリクサ」は実体化したエネルギーみたいなものかと思ったけれど、操作して機能を制御したり、メモを書き込んだり、なんかマシンのようでもある。元になった自主制作アニメではタバコっぽい外見で、ケムリクサの名称も自然だったけど、葉脈が浮き上がる透明な葉っぱみたいになったので咄嗟に名前との関連がわからなかった。でも使い切ると煙になって消えるからケムリクサなんだな。
姉妹たちの本体もケムリクサらしい。で、ケムリクサを維持するためには水が必要なんだけれど、この世界では水が貴重でなかなか手に入らない。水を探すために「壁」を超えて危険な未知の領域を探索すべきか迷っていた。そこに、突然記憶喪失の青年、わかばが出現した。自分は人間だと主張するが、自分たちとは違い、「虫」でもない未知の対象に姉妹たちは強く警戒する。とはいえ結局それがきっかけとなって、リン、リツ、リナとわかばの一同は水探索の冒険に出かけることになる。
姉妹たちはそれぞれ機能が特化してるらしく、リンが見えるほどにはリナは遠くが見えない。わかばが感じる匂いとか、暑い寒いとかの感覚はリナたちにはわからないらしい。
視覚と体力のリンは戦闘向き。リツ姉はケムリクサの樹(?)を育ててその根を自在に操り、住居にしてる廃電車の車両の脚にしたり、周囲に伝送路を張って自身の聴覚と合わせて索敵したり、と支援要員。リナは分裂(分割?)してクローンみたいに増えたらしい。何でも食べて、食べたものを自由に再合成したりするみたい。他にもリクとかリョウとか姉妹がいたみたいなんだけれど……
赤虫は戦闘もしくは警備用のドローンが暴走してるような感じで、紅い霧の中に潜んでいる。どうもケムリクサに反応して攻撃してくるらしい。
7話まできたけれど、一つ新しいことがわかるとまた謎が増えるという感じで、うまい具合に焦らされてます。
なんだか随所でけもフレっぽさを感じるのは、やっぱたつき監督の作家性というか、書きたいことがすごく明確に決まってるんじゃないか。何を書いてもアタゴオルになる、ますむらひろしみたい。

シュガー・ラッシュ/シュガー・ラッシュ・オンライン

ゲームセンターが閉店時間を過ぎると、ゲーム内のキャラクターたちは仕事を終えてくつろぐ、といったトイ・ストーリー的世界。まあくるみ割り人形とか、伝統的な設定ではある。ゲームキャラのお話なんだが、パックマンだのソニックだの、ストリートファイターの各キャラだのと有名キャラが山ほど出てくる。レディプレーヤーワンみたいなもんだな。こういう、引用というかサンプリングしまくりって、やっぱり日本アニメの影響なんだろうか。カメオ出演で画面にちょろっと、お遊び的に出てくるのは昔からあったように思うけど、こういう堂々と出してくるのは最近の傾向なんじゃないかなあ。そうでもないのか。
主役がおじさんと少女で、ロマンチックな話にならないのも、ディズニーとしては珍しいような。一応脇役がカップルになるけれど。そういえばズートピアも、主役二人はバディでカップルじゃなかった。アナ雪のクリストフも扱いがぞんざいだったし、よく考えてみれば珍しくもないのか。
とにかく、やたらと小生意気なヴァネロペが可愛い映画。
シュガー・ラッシュ」は、悪役で同じゲームのキャラから仲間扱いされないことに不満があったラルフが自分の役割を見出して仲間から認められるとか、ターボの陰謀で無視されていたヴァネロペが名誉を回復するとか、社会と調和的な役割が健全に機能することで社会が秩序を回復するという思想だったけど、続編の「オンライン」の方はその役割を否定するのね。
シュガー・ラッシュ」のラストではヴァネロペが、プリンセスとしてこの国を盛り上げていくぞ、みたいなノリだったのが、「オンライン」でネット上のワイルドなレースゲームを知ると、もう昔のヌルいゲームじゃ満足できないってなっちゃう。ここで、元のシュガーラッシュの世界を捨てることへの葛藤が生まれるわけだけれど、それが「元の関係に固執する」ラルフとの葛藤として表現されてるので、ラルフが割りを食ったというか、話の展開上ラルフが余計意固地にならざるを得なかったような感じはあった。
ポップアップで呼び込みしたり、投稿動画でいいね稼ぎしたり、ネット絡みの小ネタが楽しい。
SWのストームトルーパーまで含めて、ディズニーキャラ総出演なんだけど、ディズニープリンセスのミュージカル体質にヴァネロペがツッコミ入れるとか、自虐ギャグが炸裂してた。
シンデレラ症候群」なんてコトバもあったっけ。ディズニープリンセスというと、ジェンダーバイアスの象徴みたいに言われかねないところがあったりするんだけど、それを意識して、主体性がないように見られてんのがムカつくとか言わせてるし。むしろシンデレラがガラスの靴をためらいなく割って切っ先を突きつけるとか、チンピラまがい。白雪姫はなんかちょっとアブナイし。キャラ崩れないのはアナくらい?お姫様と言いつつ、庶民的なキャラだから。ラプンツェルも元からあんな感じか。用意された役割からの解放、とかも言えるんだけれど、見ててもなんかポリコレなのかパロディなのかわかんないよね。
herecy8.hatenablog.com

コナリミサト「凪のお暇」

凪のお暇(5) (A.L.C.DX)

凪のお暇(5) (A.L.C.DX)

OLの大島凪は、ひたすら周囲に合わせて生きてきた。愛想笑いを貼り付かせて自分を殺してきたけれど、無理が祟ってついに限界がきてしまう。職場で過呼吸を起こして倒れた凪は会社を辞め、郊外の安アパートに引っ越して服も家具も捨て、彼氏も捨てて人生をリセットしようとする。というところから始まる、ユルフワな絵柄のコメディ。無難な人生を選んできた反動で、いきなり無茶なことを思い立って始めてしまうというパターンが原動力になってストーリーが転がっていく。ただ基本は少女マンガなので、三角関係がメインプロット。
凪の危なっかしい試行錯誤の奮戦記を楽しむマンガだけど、女同士の生々しいマウント合戦があったり、豆知識みたいな節約テクの紹介が色々入ったり、女性読者の共感を呼ぶ感じなんだろうなあ。
絵柄は少しクセがある。線の少ない顔で、瞳が三本縦線。とにかく丸い瞳を描かない。逃げ恥の海野つなみの描くガラス玉みたいな瞳も、なんだか気味悪かったけれど、コナリミサトの瞳もかなり印象が強い。なんだかんだ言っても少女マンガの絵では髪と目にフェティッシュが向かうので、それを拒絶しているような描線が、どこかぞんざいな印象を与えているように思う。

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 2 (A.L.C. DX)

凪のお暇 2 (A.L.C. DX)

凪のお暇 3 (A.L.C. DX)

凪のお暇 3 (A.L.C. DX)

凪のお暇 4 (A.L.C. DX)

凪のお暇 4 (A.L.C. DX)