香月美夜「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」ふぁんぶっく

特別企画の「ふぁんぶっく」も電子版配信になります。「領主の養女」1までの表紙と口絵、香月美夜書き下ろしSSのほか椎名優は書籍化されてないWEB版の閑話をマンガ化してるし、鈴華のおまけ4コマも載ってます。香月美夜QandAも、作品設定から個人的なことまで、結構突っ込んだ話が載ってるし、イルゼとかエラとかも含めてキャラの設定ラフだって載ってるし、断然お買い得です。
http://mypage.syosetu.com/372556/
香月美夜「本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜」 - ねこまくら
herecy8.hatenablog.com

「騙される子供」
本好きの下剋上」に出てくる悪役は、子供を騙して利用する。子供は救われるんだけど、騙されたことに対して罰を受ける。
デリアはビンデバルト伯爵に騙される。デリアは誤った判断をして、「罪」を犯す。「罪」に対しては「罰」が必要だ、ということで、一生続く種類の罰が与えられる。その後贖罪の日々を過ごす、ということではあるけれど、身分制社会の設定の中で、暗黙の前提を明示したという程度とも言える。その後の生活も描かれるのも特徴的。贖罪というよりは慈悲を恵まれたという認識で、必ずしも不幸ではないし、楽しそうな様子が点景として描かれたりもする。その後も繰り返し描かれるローゼマインの考え方の見えるエピソードの一つではあるけれど、強い社会的規制のもとで行きている状況が示されるエピソードでもある。
ヴィルフリートはゲオルギーネに騙される。騙された、というより直接間接に罠にはめられるんだけど、二度も繰り返す。最初は叱られるだけでも、二度目は重大な「罪」を犯して、生涯幽閉か処刑されかねない事態となる。次期領主という自分の立場に無自覚であるが故の罪。まあ諸事情色々あって罪一等減じられるんだけれど、生涯残る汚点としてその後も蒸し返されたりする。
ヴィルフリート自身どちらかというと思考が幼いので、「周囲の大人の事情に振り回される子供」だった。で、失敗を重ねて自覚を得た先に立ちはだかるのが「婚約者」ローゼマインだというのはやはりチャレンジングに過ぎた。領主候補生としての重圧とかローゼマインの婚約者としての重圧に耐えようとしてさらに迷走する。「ローゼマインに手綱をつける」という無茶な期待をされて潰れかけたところで、結局婚約解消で解放されるけれど、その後本編からもフェードアウトしてしまう。
ヒルデブラントはラオブルートに騙される。ラオブルートはかなりえげつないし、ローゼマインを想う心の弱みに付け込まれたヒルデブラントがかなり可哀想ではあるんだけれど、罰というより、自分の将来の夢と希望を自ら葬る結果となる。ローゼマインにある意味振り回された人で、ローゼマインに自覚がない分救われない。一番かわいそうなキャラ。SSでなんらかの救いがあるのかはまだ現時点では不明。
ティーツィアはディートリンデに騙される。これもディートリンデがえげつないし、レティーツィアの不注意を責めるのは酷な感じではあるけれど、引き起こした結果は重大。世界設定として、過失責任みたいな法理論が通るのか不明だと思ってたけれど、そもそも裁判制度がないのか。アウブ判断で責任は問われなかった模様。SSで物語的な救いがあるかどうかはまだ不明。
教育を重視することの裏返しとして、無知の罪を描いているのか?無知、というより自分に必要な事に無自覚でいると大変な事になるよ、みたいな。
基本的に悪人が罰せられる勧善懲悪の物語で、悪人として描かれずに殺されたり不幸になったのはランツェナーヴェの被害者くらい。その後の戦闘では被害者は多数いたが名前は出ていない。中央騎士団長夫人のオルタンシアは暗殺された疑いが強いが、不明。
ジギスヴァルト王子やローゼマインの護衛騎士を辞任させられたトラウゴットも悪人とまでは言わなくとも因果応報として描かれている。なので騙された子供の悲劇が印象として際立つ。