若おかみは小学生!

交通事故で両親を亡くした織子(おっこ)は花の湯温泉で小さな旅館春の屋を経営している祖母に引き取られる。都会のマンション暮らしの小学生だったおっこにはクモもヤモリも怖いのに、ユーレイまで出てくるから田舎暮らしは大変。わけがわからないうちに流れで旅館の女将修行を始めることになる。
旅館に憑いてる小鬼のせいで、来る客はクセの強い客ばかり。でも、おっこの心のこもったもてなしが救いをもたらす。

児童文学の原作を、手をかけて丁寧にアニメ化した映画です。原作もテレビアニメ版も知らないのですが、全20巻のシリーズということなので、かなり大胆にまとめてるのだと思います。それでも原作ファンにも好評のようなので、しっかり原作のエッセンスを掴んでいるのでしょう。力強い構成で一本の映画にまとめあげています。無駄なシーンがない精緻な脚本、作画もキャラの細かい仕草からモブの動きから、画面の隅々まで神経が行き届いていて、カメラアングルも結構大胆にとったり自由自在だし、完成度の高い作品です。なんかtwitterの口コミで火がついて尻上がりに客が入ってるとか。

舞台が山間の温泉郷ということで、高低差を生かしたダイナミックな構図が気持ち良い躍動感を生み出しています。温泉街や神社はもちろん、最初と最後を締める神楽も、縁起を設定して専門家に発注し、衣装も揃えて実際に舞った映像を準備したとパンフレットに書いてありました。作画、演出、美術と見事で、ジブリの遺伝子を感じます。そのはずで監督は「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」など名だたるスタジオジブリ作品で作画監督を務めてきた高坂希太郎作画監督は「君の名は」の廣田俊輔ですがやはりジブリ出身で「コクリコ坂から」の作監でした。そのほか美術監督も「崖の上のポニョ」の背景担当、ジブリ美術館短編アニメの美術監督だった渡邊洋一、そして美術設定は「思い出のマーニー」で場面設定を担当した矢内京子と揃っています。

親子三人の楽しそうなエピソードから始まり、高速道路で対向車線からいきなりトラックが飛び出して来る事故の主観映像というショッキングな導入の後、マンションの部屋をおっこが一人で出て行くシーンに繋がります。親がいない設定自体は珍しくもないんですが、子供向けのアニメで幸せな日常が唐突に断ち切られるシーンを、尺とってしっかり日常風景に感情移入させたあとで持って来るというのは、結構驚きました。事故のシーンは正直怖いです。その後、病院だとか葬儀だとかは一切省略して、おっこが春の屋に向かうシーンに続いて、観てる方はショックを引きずってるのにおっこの方は淡々としています。本作にはこういう省略が結構あって、それでテンポを上げてるんですが、ここではまだおっこが両親の死を受け入れていないということを表しています。気がつくと普通に親子三人で過ごしていて、「なんだ生きてたんだ」みたいなシーンがポンと入ったりして、まあ夢だったりするんですけど、夢とも限らない描写になってます。オッコだけが見えるユーレイとかも出てくるので、両親のユーレイが出てきてもおかしくはない。でも、ユーレイは微妙に半透明で向こうが透けてたりするんですけど、両親は透けたりしないんですよね。現実のレイヤーがいくつも重なり合ってます。この演出が全部後につながっていってます。この両親の死をどう受け入れるか、「喪失の受容」が本作のクライマックスになるわけです。クライマックスにはユーレイたちとの別れであるとか、若女将としての自覚であるとか、全部のせで盛り上げていてすごい構成力なんですけれど、他の二つのテーマの重さで、流石にユーレイとの別れについては影が薄くなったかな、ユーレイだけに。
しかしあの病み上がりのお客さんに出した特別メニュー、普通に夕食が終わった後で遠くのホテルまで行ってネタ本探して、それからメニュー決めて、で果たして食べたのは何時だったのやら。おっこの無茶振りをこなせる板さんって、ジェバンニか?
温泉プリンとか露天風呂プリンとか、単に「美味しいもの」という記号以上ではなかったけど、何か原作のエピソードがあるんだろうか。
あと、「ピンふり」真月のいる部屋が「美女と野獣」の城の図書室みたいなんだけど、どんなお屋敷に住んでるのよ。